October 26, 2011

観劇レポウト「共生の彼方へⅠ 霧笛」

五十嵐劇場。(いからし げきじょう。)


それは、新潟市の西のはずれにある、海っ傍のプレハブ小屋。

「見たい人と、見せる人さえいれば、どこでも劇場だろー!」
という、若き演劇人たちがかつてそこに建て、
自分たちで電線を引き、桟敷を組み、天井に木材を這わせ、
壁を黒く塗った、在りし日の情熱を伝える神殿。


実際のところ、大半の時間は猫と蜘蛛の住処と化している。

私も何度か通っているが、毎回、照明機材借りたり
大工作業の仕事場として使わせてもらうだけ。
だるまストーブにヤカンをかけて隙間風をしのぐあばら家だった。


しかし、先週の土曜日。

私は見た。五十嵐劇場の命の音を。

P2011_1022_184824

劇団A.C.O.A.招致公演 「霧笛」がやってきたのだ。
いつもの桟敷にはお客がいっぱい。30人はいたろうか。
外のスペースには仮設テントを建ててカフェをオープンしている。
A.C.O.A.の主宰者スズキシロー氏が自ら珈琲を入れている。

豆を挽いて、お湯を注いで、来てくれた客をねぎらう。
下の写真のお兄さんが、主宰で主演のシローさんだ。

ようこそ新潟へお越し下さいました!
連れてきて下さった五十嵐劇場の安達姉さまありがとう。

P2011_1022_184837


開演10分前。ねぎらう。

開演5分前。まだ、ねぎらう。


5分前ですよ!あなたの、一人芝居を観に来たんですよ、シローさん!!

と、若干焦るわたし。
しかし、「まもなく開演しますよ」と、誰も言いに来ないのに、
外でくつろいでいた客たちはきちんと時計を観ながら中に入る。
みんな芝居が好きな人たちなんである。
その空気を読んでシローさんは急きたてもせず、焦る様子もない。

いつもの五十嵐劇場に、裸電球がたくさん浮かび、
サクソフォンが置かれている。
いつもと違う景色はそれだけだ。
それでも、それは倉庫じゃない、作業場じゃない、確かに、

舞台空間だった。


不思議なあたたかい緊張感の中、
客の一人のように自然に、シローさんは舞台へ上がった。
お客ひとりひとりとゆっくり目を合わせていく。
そして、自分で、そこに置かれたオーディオのスイッチを入れた。

波の音が流れ始めた。


そこからの1時間強。
二人の灯台守、若い「僕」と老齢のマックダン、そして「怪物」。
真っ暗な夜の海の物語へ、五十嵐劇場は迷い込んだ。

アメリカの怪奇小説作家レイ・ブラッドベリの「霧笛」。
(Wikipediaで作者についてはこちら。)
その一人芝居、今回はサックスやクラリネットとのセッションバージョンだ。

一人芝居がこんなに面白いものだとは知らなかった。

シロー氏の中で赤々と生きる人物や風景たち。
闇夜を割いたり、横たわったりするような、鈴木正美氏のサクソフォン。
私は、確かにあの時間、劇場の中に、海を見た。


語り部がいて、その人に愛された場所があり、
聞き手がいて、もてなされたと感じたとき。

そこはどんな場所であれ、劇場だし、
どんな劇場であれ、魔法のかかった最高の劇場だ。


そんな大好きな秘密の劇場を見つけた、夜でした。

劇団A.C.O.A.公式ブログはこちら



トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
::::最近のコメ::::