May 2010

May 30, 2010

深夜2時の八王子ドライバー

運命論者である。


人と人との出逢いは、まさに運命だ。
1秒、1ミリ、何かタイミングがずれただけで、
出逢う筈のなかった二人が出逢うのは、
偶然ではなくて必然だった、と私は思う。


5月23日。


一体どうしたら、そこまでダメ人間になれるのかと、
自分でも笑ってしまうほど、あの日の私はクズだった。


クズ要素(1)
職場に財布を忘れた。

クズ要素(2) 
それに気づかず先輩と駅前の居酒屋に入った。

クズ要素(3)
支払い時に気づき、翌日の生活費だけ借りた。



そして、


クズ要素(4)
中央線の終電に乗って、寝過ごした。 


起きたら八王子駅。
(滞在先の国立から4駅)

たかが4駅と思ったあなた、中央線の23区より西側
というのは、一駅の間隔が、市町村名が変わるほど長いのです。

特に立川から西は、もう歩ける距離ではない。 
4駅もあったら、翌朝あけてしまう。

しかしクズ要素(3)に伴い、所持金がわずかである。
タクシーに乗っら最後、明日の生活費がなくなる。

というわけで、一駅でも歩こうと線路に沿って歩き始めた。


しかしここで、 極めつけの

クズ要素(5)
八王子からは「横浜線」という、ぐぐっとカーブして
下に向かって伸びている路線が出ている事を忘れていた。

斯くして、私は全然違う方向に向かって深夜二時、
どしゃ降りの雨の中、八王子を徘徊する事となった。


ばしゃばしゃとぬかるみをあるくこと1時間。
とうとう出て来た次の駅。
当然「豊田」であるはずが、「片倉」???

……


どうやらタクシーに乗るべき時が来たようなので
流しのタクシーに向かって手を上げた。お手上げである。 

乗り込んで事情を話すと、八王子から全く明後日の
方向に随分離れてしまっていた私を、不憫に思った
運転手さんは、上限5000円で国立まで乗せてくれる
ことになった。


そのドライバーがただ者ではなかった。 


「お客さんは、学生さん?」で始まった、30分劇場である。

私「いや、働いています。大学なんてもう10年も前で」
運転手 「そうですか、若く見えますね」
私「よく言われます(ふざけた格好をしているので)」
運転手「私は大学を中退したんです」

ええ!重い! 

運転手「大学2年の時でした。弟が大学受験をしようという
その年に、親父が病気で死にましてね。母親の収入だけで
二人の息子を大学に通わせるのは無理でしたから、私が自ら
辞めたんです。」

それは、弟さん思いな…

運転手「ホテルマンになりまして、しばらく経験を積んでから
独立して、飲食店経営を始めたんです。ちょうどバブルの
絶頂期でしたから、大当たりして、バーとかレストランとか、
いろんな形態で一気に4店舗に拡大しました。」


オーナーさんじゃないですか!


運転手「それは儲かっていまして…ベンツを何台も、乗り回して
いたんですよ。税理士から、月に何百万以上は給料として
取らないように、損をするから…と警告されるくらいでした。」

羨ましいサクセスストーリー。

運転手「そしたらバブルがはじけて、手を広げすぎていた
ツケがきました。他人に任せられるタイプではなく全部自分で
経営していましたから、手が回らなかったのもあり、
一店舗また一店舗と閉じて行き、最後の一つになった時、
妻と離婚する事になり、そのお店を妻にあげて、わたしには
何もなくなりました。」

仕事も、お金も、家族も。

運転手「しばらく廃人のように過ごしていましたが、
あるとき、もう一度自分の空間を持ちたいと思ったんです。
小さくても、自分がオーナーで、お客様が居て、接客が
できる空間を」

そしてタクシーを。

運転手「そうです。ホテルマン時代の接客経験と、
ベンツ時代の道案内のおかげで、完全に歩合制の会社ですが
40万以上の月収があります。お客様と接するのがなにより
楽しいし、天職だと思っていますよ。」

いつのまにか、引き込まれていた。
微笑みをたたえて淡々と話す運転手さん。
タクシードライバー歴5年、一見冴えない彼は、
激動の過去を背負って日野バイパスをひた走る。


午前3時、国立到着。
メーターは5500円。

「ここでお客さんを乗せたのも何かのご縁。
売上はごまかしておきます、また、お会いしましょう」



SANWA TAXI DRIVER。

それは一人の男の、栄光と転落、挫折と再生の物語。
この夏、あなたの街にも、カミングスーン。 

May 25, 2010

第二回つめ

3d387664.JPG
ぎゃー

かわいー

職人芸です先生


May 19, 2010

秋葉原にて

こんな電気屋街って、世界に他にもあるのだろうか。


私は秋葉原が結構好きなんである。

今日は、仕事で必要な赤外線暗視カメラを探しに行った。


ちょっと特殊な機器なので通常の量販店には置いていない為、
あらかじめ調べてお店の目星をつけてから行ったのだが、
秋葉原は量販店以外の専門店はどこも本当にちいちゃい。

あのガード下の蚤の市。一体何日に一回売れるのかという
電子パーツや電飾を、机一個分くらいのスペースのお店が
ひしめき合って売っているのだ。

秋葉原にパーツを探しにいくといつも、
珍しい深海魚を探す潜水艇に乗っているような気分になる。
 
未知で、ちょっと不気味で、ワクワクするのだ。


 秋葉原のお店の人々は、とても親切で、商人よりも職人に近い。
たとえば「このパーツは置いているか」と聞くと、
「うちの店にはないが、あっちの店にはある」といって
詳細な地図を書いてくれ、しかも「何階のなんちゃらという
コーナーにあるから」と、私が確実にブツにたどり着けるよう
アドバイスをくれるのだ。街全体でひとつの共同体のようだ。


そして圧倒的に女性客が少ないため、とても大切にされる。
いまどきありがたい話。

メイドさんたちには見向きもされないが。

 
今日は防犯カメラ専門店を3つ回ってみたが、
とあるお店で駆け込んできた男性が、
「修理、終わってますか」と受け取っていった品が、
万年筆の形状をしたものだった。



きっとペン先のキャップをはずすと、超小型カメラが現れる。
あれが世に聞く、スパイカメラというやつか。

つまり彼こそが、ジェームス・ボンドだったのだ!!


彼はソフマップの中へ、風のように消えて行った。 
そして司令官の残像と共に、店頭の
ノートパソコンが自動的に消滅したのである。

l
 

nanaibashi at 02:10|PermalinkComments(7)TrackBack(0)

May 15, 2010

外の現場

昨日から始まった、大きな芝居の仕事。


今まで働いていた「劇団」という、
多くを自社内で賄い、外部の人間に対して
常にこちらがクライアントという特殊な組織では
見えなかった「どこまでが誰の責任範疇」
かがはっきり見える。

「暗黙の了解」はあるけれどそれは組織内のみの
常識ではなく業界全体での常識。

全員がプロダクションに雇われている並列の状態で
ようやくはっきり舞台監督という職業が見えてきた。


業界は狭いもので、劇団時代にお世話になってた
大道具の棟梁に現場で再会。


「外は良くも悪くも劇団とは全然違うからよく勉強するといいよ」
と力強くアドバイスいただいた。


スキルは同じものが求められる。
むしろ以前より高く早い頭の回転が必要だ。


くるくる働かそう、あたま。


神経は太く
仕事は細かく

だ。


それにしても一ヶ月現場から離れただけで筋力が落ちている。

以前軽く持ててたサイズの鉄板を運んでいたら、
腕が痙攣し落としかけて愕然。


堕落…


May 13, 2010

観劇レポウト 「ダルクの森」


レクラム舎

レクラム舎。

76年より続く、老舗劇団。
小松幹生、別役実、清水邦夫等の戯曲を得意とする、
小劇場界の重鎮である。

大学時代の恩師(仙人)が舞台監督をされており
急に電話もらって見に行った。

久しぶりに世田谷線に乗り、スタジオAR。
キャパはおよそ30。玄関入って2秒で舞台である。

シンプルな装置、いつもの小劇場の匂い。
薬物依存症患者たちの更正施設に取材に来た、
一人の女性記者と患者たち、職員たち。

誰が患者で誰が正常か、
どこまで現実でどこからラリっているのか、
途中から倒錯する価値観、認識。 そ
れぞれの持つ辛い過去とその真偽、
希望、絶望、発狂、前進、猜疑心。

シンプルな舞台の上、俳優たちの平均年齢は40代半ば。
恐ろしく圧倒的に、演技が巧い。
若手には出せない、人生経験に裏打ちされたセリフの重さと軽さ。
芝居に生きている人たちの、魂の舞台を見せていただいた。

明日から私も稽古が始まる。
師匠の「芸」と「稽古」に対する信念が
非常に勉強になると言われた。

ほとんどが夕方から深夜の稽古。引き締めて臨む。


レクラム舎「ダルクの森・アディクション~依存~」
23日まで、スタジオAR。 脚本は雑誌「テアトル」に掲載。


::::最近のコメ::::