November 01, 2007

タクシードライバー

玄関で時計を見ると、9時だった。


土曜は6時半に早起きして、
朝風呂に入り、料理をして、時間があるから勉強までして、
メイクもきちんとして、

朝礼の30分前に着くように出ようとしていた。


上井草から汐留までは電車で55分。
歩く時間と電車の待ち時間を入れるとドアtoドアで70分だ。

朝礼は9時45分なのでいつも8時に家を出る。





でも、時計を見ると、9時だった。







今が9時かよ!!!と認識するのに約5秒。


遅刻の二文字が目の前を走りすぎた。
朝礼まであと45分しかないじゃん。
このままでは30分遅刻だけど、
日頃から遅刻撲滅をスローガンに掲げている手前、
あきらめるわけには行かなかった。


とりあえず電車で間に合わないのは火を見るより明らかだ。
バイクで45分で行ったことがあるが、あいにく台風。
無理。
事故る。

幸い土曜日、道はすいているはず!
ここはタクシーにのるしかない。
不屈の女、ミッション:インポッシブルに挑むべく
雨のなかを駆け出した。


拾ったタクシーのおじさんに
「とおいんですけど、新橋まで」と言うと、
状況を一目で察したらしいおじさん「時間、大丈夫ですか」。

私「それが、遅刻ぎりぎりで。一時間で着けますか」
おじさん「こみ具合によりますので何とも言えませんが、やってみましょう」



・・・・。



それにしても穏やかな口調だ。

私がどれだけ早口で喋っても、仏のような話し方を崩さない。

私、自分を見失わないよう、適当に話し掛ける。
「普段はバイクで行ったりもするんですけど、雨だと怖いので」


客の僅かな情報から話題を引き出す。
このおじさんは、「プロ」だった。


おじさん「長崎まで、美味しいコーヒーを飲むためだけに
東京からバイクで行った77歳の男性がいるんですよ」
私「は?はい…すごいですね」
おじさん「趣味がバイクなんでしょうね。
わたしも運転が楽しくて、こうして非番の日まで出てくるんですよ。
アメリカの××氏の言葉で、仕事は楽しく、というのがあります。
お客さんのは何ccですか?」
私「250ですけど…長距離スピードだして走ると軽すぎて」
おじさん「今の季節、気持ちいいでしょう。どこか行かれましたか?」
私「あ、先日湘南方面に…」


という具合にいつのまにかバイク話に夢中。
アメリカの人の言葉の真偽は不明だが、
緊張がほぐれてしまった。

しかも、バックミラーをよく見てみれば、
おじさんは話し掛けるとき、ミラーごしにちゃんと私の目をみている。
引き込まれるわけだ。

おじさんは10以上の職業を経験しており、
タクシーはもう長い間仕事にしているが、
ときどき長期でやすんで別な仕事をやってみるそうだ。



スピードこそ出さないが、おじさんのルート選定は見事だった。
しかも左端車線を巧みに使ったバイク顔負けのすりぬけを連発、
トロい車にはためらわずクラクション長押し、
新橋エリアに入ってからは私の横道ナビとの息ぴったりのチームワークで、
見事、9時44分に目的地に降り立ったのである。


私「最高のドライバーに出会えてよかったです」
おじさん「また今度、バイクの話、聞かせてください」

ひとつの目的のために走り、
喜怒哀楽と勝利の喜びをともにした、一組の男女。
一本の映画を見おわったような気持ちだった。


しかし名前を覚えていないどころかタクシー会社すら見なかった。
おじさん、この日記をみつけてくれないかな…


ま、せいぜいタクシーに乗ろう。

この記事へのコメント

1. Posted by たぬき   November 01, 2007 13:06
間一髪でセーフでしたね。
いい運転手さんに出会え 日ごろのnacoさんの行いがいいから神様が助けてくださったのですよ。
と言う私も過去に2度寝坊して ゴルフに行く主人をあわてて起こしたことあります。
2. Posted by べんつい   November 02, 2007 07:42
本当に、最後までドキドキ・ワクワクの映画でした{笑い}
nacoちゃまにはこんな何気ない所でも素敵な出会いがあるのですね{ハート}
1分前に到着した所も、ホンと昔で言う『ギリチョン・セーフ』ですんばらしいです{ドキドキ小}
また、このドライバーさんのタクシーに乗車出来る日がくるといいですね{クローバー}
3. Posted by naco   November 02, 2007 17:35
>べんついねえさん
人生すべてギリちょんセーフで来ています、いまのところ、、、しかしさすがのギリちょんクイーンも嫁には行きそびれそう!!{困った}{困った}{困った}
>たぬきママ
遅刻しそうなときって焦りますよね~~!!
ほんと、今回は冷や汗かきました。
4. Posted by Maru   November 03, 2007 01:21
分かるぞその気持ち…。
生きていれば決して避けることの出来ない状況。
そして、同業としてのこの遅刻の重さヤバさ。
他の業種の皆様にも当然あると思いますが、本当に一瞬現実を疑うよなぁ…。
いやはや、今回は本当に間に合って良かったなぁ☆
5. Posted by naco   November 06, 2007 00:57
>maru
おお、戦友よ、、
どんな仕事でも遅刻はまずいと思うが、この業界での遅刻、、、積み上げて来た苦労が音をたてて崩壊していくあの瞬間。あのときのあの気持ちといったら。ああ!!!間に合ってよかった!!!気をつけようね!!!
6. Posted by ゴディ   November 07, 2007 01:06
どんな道でも
プロの仕事をこなす人は美しいものだ、、、
私もそうなりたい、、、
7. Posted by rz   November 09, 2007 10:52
読み終えて
あっはははははは
と、
スカッ
且つ
カラッ
とする物語。
タクシーに乗るまで、
車中、
そして、降車後までの時間経過描写に舌を巻いた。
「最高のドライバーに出会えてよかったです」
その言葉の向こうからは
?ミッション・(ひとまず)コンプリート?という、
2人の職人の
心の声が聞こえてくる。
しかしそれは“安堵の喉笛”ではなく、
自身を賭した戦いのOverture。
なんて、
褒め過ぎた。
8. Posted by naco   November 13, 2007 08:49
>ゴディチャマ
あのおじさんは、車を運転することだけでなく、
「接客」をドライバーの仕事として捕らえている、
ほんもののドライバーでしたよ。
そういうタクシーがどれほど少ない事か。
とくに東京には。
プライドを持って仕事をしてほしいです。
>rz
おひさしぶり。ほめすぎだよ、ほんと。

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